住まい探しに方位を取り入れる話は、以前の記事でご紹介しました。今回はその続きとして、事業用の物件——事務所の開業や移転、店舗の出店についてお話しします。
経営者のお客様から事業用物件のご相談をいただくとき、方位に関して決まって聞かれることが3つあります。今日はその3つに、実務の立場からお答えしていきます。
ご質問①「会社の場合、誰の方位で見るのですか?」
一番多いご質問です。答えは、代表者の生年月日で見ます。
法人には生年月日がありません。会社の意思決定の中心は代表者であり、移転を決断し、契約書に判を押し、毎日その場所へ通うのも代表者です。ですから事業用物件の方位鑑定は、社長ご自身にとっての吉方位・凶方位を基準に組み立てます。
共同経営の場合は、代表権を持つ方を軸にしつつ、パートナーの方位も併せて確認します。お二人にとって無理のない方角と時期を探していく形です。
ご質問②「物件が先ですか、時期が先ですか?」
住まいと事業用物件の大きな違いがここにあります。住まいは「良い物件が出たら動く」でも成立しますが、事業には決算期、繁忙期、資金計画、採用計画といった事業側の都合があります。
ですから事業用の場合、私はまず「動ける時期の候補」を先に洗い出すことをお勧めしています。代表者にとって良い方角と時期は、年単位・月単位であらかじめ分かります。「来期の第2四半期、この方角なら動ける」と分かっていれば、その期間に照準を合わせて物件を探し、賃貸借契約や内装工事のスケジュールを逆算できます。
良い物件に出会ってから時期を占うのではなく、良い時期を先に押さえて物件を待ち構える。この順番の違いが、事業用物件で方位を活かす一番のコツです。
開業の場合はさらに、登記日や開業日という「日」の選定も加わります。会社の出発点となる日は一度きりで、後から変えられません。物件と同じくらい丁寧に選ぶ価値があります。
ご質問③「店舗は立地が命。方位を優先して商売になりますか?」
なりません——方位「だけ」を優先したら、です。
店舗は商圏、人通り、視認性、賃料と売上のバランスがすべての土台です。この土台を欠いた物件は、どれほど方角が良くてもお勧めしません。方位は、商売の鉄則を満たした候補が複数あるときの「決め手」として使うのが正しい順番です。
そのうえで、店舗ならではの視点がひとつあります。入口の向きです。お客様が毎日出入りする入口がどちらを向いているかは、店の空気を左右する要素だと私は考えています。実際、私自身もこの11年、自宅や事務所を選ぶ際には入口の向きを必ず確認してきました。同条件の候補が並んだとき、最後にどちらを選ぶか。その判断軸を一つ多く持っていることが、経営者にとっての方位の価値です。
移転は「攻め」か「固め」かで選ぶ物件が変わる
最後にもう一つ。同じ移転でも、事業を拡大する攻めの移転と、体制を整える固めの移転では、適した時期も方角も変わります。
ご相談をいただいたら、まず移転の目的とタイミングを伺い、代表者の方位と重ね合わせて計画を組み立てます。物件探しはそれからです。事務所や店舗は、経営者ご本人だけでなく、働く人とお客様が毎日集まる場所。だからこそ、住まい以上に「いつ、どちらへ」を丁寧に設計する価値があると考えています。
開業や移転、出店の計画が視野に入ってきたら、物件情報を集め始める前の段階で、一度ご相談ください。時期の設計から一緒に組み立てられるのが、一番良いスタートです。